ゆきノート

好きな本や音楽、同棲中の恋人とのことなどについて。

履いてみたいなドクターマーチン

年が明けて初めて、恋人に会った。地下鉄の駅の改札前で待ち合わせて、地上へ出て歩く。

居酒屋のランチで適当に昼食を澄ました。ポン酢のかかった鶏のから揚げを頬張る。安くて美味い。何と素晴らしい言葉であろうか。店を出て道路沿いに再び歩き始める。ファストファッションの大型店舗、海外発信の雑貨屋、チェーンの喫茶店、多種多様なテンポが視界を流れていく。人も一緒に流れては、信号待ちで澱む。

ウーバーイーツの自転車を見つけては、「あ、ウーバーイーツだよ」「ほんとだ」と意味なんてないやり取りを繰り返す。この寒い中、矢場とん本店には行列ができていた。24年間愛知に住みながらこれまで食べたことのない矢場とん味噌かつに思いを馳せながら、歩みを進める。

取るつもりもないUFOキャッチャーの景品と買いもしない靴や服を眺めつつ大須の商店街を闊歩する。ドクターマーチンは何歳まで履いてもいいのか。あの時は「20代半ばが限度じゃない?」とか言ったけど、何歳でも履いていいと思ってるよ。

大須観音で初詣を済ませる。鳥居の前の露店でベビーカステラを買った。恋人は地元で初詣に行くときはベビーカステラを買うのが恒例だそうだ。子どもの頃からの彼の「慣習」に私が侵入した気がして、ちょっと得意気な気分になる。

おみくじは小吉だった。小吉だったものの、「人にかわいがられて上手くいく」と書かれていて、今まで人の運だけでなんとかなってきた私みたいな人間にぴったりだと思った。なんだか嬉しくて、木には結ばずに持ち歩いているノートに大切に挟み込んだ。

茶店に入ったりブックオフを覗いたりしているうちにのんびりと時間は過ぎた。近所のスーパーに寄って、適度な肉と適度な野菜を買って家までの道を歩く。買い物袋に中には、鳥のもも肉ときのこ、トマト缶が入っている。どんな食材も一緒に煮込むだけでそれなりに美味しくしてしまうのが、トマト缶のすごいところだ。

期待通り、チキンのトマト煮込みはとても美味しかった。私たちはトマト缶に感謝を表しながら生きねばならないと思う。食器を片付けてテレビを見、ホラーゲームをした。扉を開けてすぐのところに巨大な顔のグラフィックを設置するなんて、まともな人間のすることではないと思う。

恋人は、「雪の方が体が冷えやすそうだから、先にお風呂に入りな」と言った。私は、「あなたは優しいね」と言った。純粋に彼が優しい人間だと思ったから。「合理的なだけだ」と彼は答えた。合理的であっても、打算であっても、それを受け取った者が「優しい」と感じたのであれば、それはや優しさになるのだと思う。

褒められると、嬉しい。だから、私は私以外の人を褒めたいと思う。皆にも嬉しくなってほしい。それが私の自己満足だとしても、私は褒めたいし褒められたい。彼は喫茶店でコーヒーを飲みながら、「雪は本当に行動力があるから尊敬している」と言った。私は熱しやすく冷めやすい性格だ。冷めやすいのを脇に置いておけば、熱しやすいという性質は「行動力がある」という長所に姿を変える。彼が「行動力」という言葉に当てはめてくれたことにより、私は熱しやすい自分が好きになった。色々なことに一瞬で熱を上げて、急激にのめり込んで急速に手を引くのも悪くない。100個ぐらいに熱を上げれば、多分その中に一つくらいは一生の付き合いになるものもあるはずだから。

シングルベッドに並んで横になり、「今年もよろしく」と呟いて目を閉じた。私たちの2020年はまだ始まったばかりだ。