ゆきノート

好きな本や音楽、同棲中の恋人とのことなどについて。

伊豆旅行記② 紅白梅図屏風、ご馳走、お風呂

恋人と初めての車旅行で伊豆へ。熱海駅周辺でしらす丼とプリンを食べ、トリックアート迷宮館で大はしゃぎしたのが前回までのお話。

トリックアート迷宮館で変なポーズと表情で写真をとりまくった後は、MOA美術館へ。ここがまたすんごいところに建っている。美術館へは車で移動。カーナビを入力して音声案内の指示通りに車を走らせるのだが、「えっホントにこの道で合ってる?」ってくらいのほっそいぐねぐねした道に入っていく。半信半疑でヘアピンカーブの連続する道を行き、無事目的地に着いたには着いた。しかしその道中、必死の思いで細い曲がり道を抜け出ると、「絶対こっちから来た方が良かったやん!」って感じの開けた大きい道に出たりして、カーナビという技術のこれからの進歩の可能性をひしひしと感じるなどした。

MOA美術館の建物はとても綺麗だった。創立はだいぶ昔らしいが、3年前にリニューアルしたらしく年季を感じさせない小洒落た建築。やはりちょっとした山の上に建っているのでスペースを広く使えることもあり、空間にゆとりのある展示は神秘的で、非現実を感じさせた。

ちょうど私たちが訪れた時は、尾形光琳作の国宝「紅白梅図屏風」が展示されていた。平日だったのもあり、私たちの他にはあまり訪問客はいなかった。大学生の女の子4,5人のグループや、ちょっとイケイケの若いお兄ちゃんたち3人組、あと一人で来ているマダムやムッシュ。そのため国宝はほぼ貸し切り状態だった。壁一面に設置された大きなガラスケースの中央に燦然と輝く紅白の梅。画面上のあらゆる場所で金箔が煌めき、画面中央に流れる川を構成する複雑な文様に自然と目が吸い込まれる。正直私は東洋の美術作品を鑑賞するのが苦手で、ここに来るのもそこまで乗り気ではなかった。MOA美術館のコレクションは日本や中国などの書画や陶芸作品、彫刻類が主。恋人が東洋美術や日本画が好きで、「紅白梅図屏風を見たい」とご所望だったのでそれならまあ、と足を運んだ。しかしやはりここまで来てよかったなあと、実際に国宝を目の当たりにしてからは思った。優れた美術作品には、人を惹きつける不思議な力があるというのを実感した。

それに、遠い昔に作られた作品が今こうして私たちの目の前に存在するということのロマンを、しみじみと味わうことができた。どんな絵画、書画、工芸品にも、当時それを作った人の何らかの思いがきっと込められていて、その時代の人たちがいなくなって何十年も何百年もたった今、その思いは作品という形で今の今まで語り継がれている。そう思うと、なんだか深く感動してしまった。そうそう、芸術の面白いのってそういうところだよな。

美術館を後にすると、だんだん日暮れも近づいてきた。アプリで予約していたその日の宿へ、再び車で向かう。3年前にも恋人と一緒に泊まったことのある宿だ。当時もそこですごく楽しい時間を過ごせたので、再度利用することにした。そこはペンションの形態をとっており、一般的な「ホテル」とはちょっと違っている。浴衣や部屋のアメニティなど、宿泊に必要な設備はしっかり整っているが、民家に泊まっているようなアットホームな時間を過ごせる施設だ。

ここの特徴は、まず大浴場がなく貸切風呂のみ8つほどあって、24時間いつでも入浴できるということ。すべて貸し切りなので、友人同士や恋人同士で行くととても楽しいと思う。温泉もあれば水流で中に入った人がすごい勢いでぐるぐるとぶん回されるスクリュー風呂もある。今回はとりあえず、夕食の前に温泉に入ることにした。2人で入るには広すぎるくらいの石造りの浴槽に、恋人と二人で肩まで浸かる。温かい温泉が、私たちの心と体をゆっくりとほぐす。足を曲げたり伸ばしたり、浴槽のふちに腰掛けてはまた肩まで浸かったり、二人だけの温泉を堪能する。男女カップルでの温泉旅行あるあるとして、肝心の温泉に入るときは離れ離れになってしまいちょっと残念っていうのがあると思うが、これならそんな心配はない。貸切風呂万歳だ。

この宿の二つ目の特徴は、あまりに豪華な夕食だ。このために今回リピートしたといっても過言ではない。とにかく量が多い。そして何を食べても美味しい。3年前にここに泊まった時は、これほどボリュームのある夕食が出るとは思っていなかったので昼間に普通に熱海の温泉街で食べ歩きとかしてチェックインした。その結果全部食べきれず、あろうことか蟹を食べ残すという残念な結果に終わってしまったのだった。今回はその反省を生かし、お昼にしらす丼を食べた後は何も口にしなかった。その甲斐もあって今回は見事間食。失敗から成功を得るとはこのことだ。伊勢海老もお造りも肉や魚や海老の陶板焼きもカサゴのから揚げも穴子の炊き込みご飯ももちろん蟹も、すべて絶品だった。多分これを食べに、数年後またここを訪れるのだろうと思う。

毎年恒例の○○旅行、とか行きつけの店、とか、そういう類のものに憧れる、という話を恋人とたまにする。毎年同じ時期に同じ場所を訪れて、去年は、その前はこうだったとか懐かしい話をしたり、私たち自身が年々少しずつ変わっていくのを実感したりするのだろうか。なんだか、大人の嗜みって感じだ。毎年熱海でゆっくりお風呂に浸かって、二人で顔をほころばせながらご馳走を食べられたら楽しいだろうなあと思う。数年後には子どもができたりして家族みんなで訪れたりするのかもしれない。

最後にこの宿、夜9時になると夕食の会場がバータイムということで様変わりして、お酒を提供してくれる。前回宿泊した時は、バーには行かなかった。成人したばかりでお酒にあまり興味がなかったのかもしれない。手作り感のあるドリンクメニューをみると、お酒の種類はかなり充実していて、見たことのない名前のカクテルもちらほらあって楽しい。今になって思い返してもいまいち名前の思い出せない見慣れないカクテルを注文しいてしばらくすると、活発そうなお姉さんが二人分の飲み物を運んできてくれた。意外とバータイムを利用する宿泊客は少ないらしく、平均して一晩に2,3組だという。そのため、アットホームで交流のある空気がきっとここの売りなのもあって、そこからはずっとお姉さんと私たちの3人で楽しくおしゃべりをしていた。私は初対面の人と会話するのが苦手で、沈黙が極端に嫌で相手もきっとつまんなかろうとどんどん卑屈になってしまうのだが、恋人といる時は多少ちゃんとコミュニケーションを図れる気がする。恋人はとてもコミュニケーション能力が高く、ざっくり言えばいわゆる「誰とでも仲良くなれるやつ」だ。だからこういう場で従業員の方ととても楽しげな会話を繰り広げる。そういうところを私は心の底から尊敬している。恋人のそういうところに知らず知らずのうちに影響を受けているのだろうか、私も今回はちょっとだけ積極的になって会話を楽しめた気がする。それに、私がコミュニケーションに対して前向きになったり、色々なことに挑戦する精神が育ってきているのを恋人はとても喜んでくれる。私の成長を、私の大切な人が素直に喜んでくれる。それってすごく素敵なことだなあと改めて思う。

その日はお酒を飲んだあともう一回温泉に入って、眠りについた。部屋にはアメニティとしてお香が置いてあったりして、慣れないアロマな煙に陶酔しながら夜が更けていった。

旅行2日目のことは次回で書こう。バナナワニ園に行ったり3月なのに雪が降ってきて半べそかいたり、これまた濃い一日だったんですよ。よかったらまた見に来てね。