ゆきノート

好きな本や音楽、同棲中の恋人とのことなどについて。

「好き」の話と汗の話

「流行りのもの」が好きだ。

話題の本や映画は漏らさずチェックしたいし、SNOWで自撮りするし、パンケーキ食べたい。

とりわけ流行の食べ物や飲み物が好きだ。話題のフードを買ったりお洒落なカフェに入って写真を撮り、SNSに投稿する。巷で流行っている食べ物や飲み物は、さすが流行っているだけあって見た目も素敵だし味も美味しい。「また世の中がナイスなものを掘り出してくれたよ!」という気持ちで、そういったものを食しに街へ赴く。

休日のたびに恋人と繁華街へ出向いてはパンケーキの有名なカフェでお茶したり、タピオカ屋の行列に並ぼうかと画策したりする(己の体力のなさのために、実際に並んだことはいまだにない)もんだから、勝手に流行フードの知識が蓄積されていく。おかげで私は社会人の中では流行に敏感な部類だと思う。

 

好きなものの話をするのは楽しい。

職場で他の人と話していると、たまに流行りものの話題になる。女性同士数人で話すことが多いからか、食べ物やスイーツの話になることが多い。私はこの通りそういったキラキラした美味しいものが大好きなので、こういう話題になった時はいきいきとして話す。こういうお店に行ったとか、あそこのカフェに行ってみたいけどいつ行っても並んでいて断念する、とか。

そういう立ち位置でいるので、周囲から見た私のイメージとして「流行に敏感で美味しいものが好き」という像が何となく構築されていく。するとどうなるかというと、周囲の人は「流行りの食べ物の話題はあの人に振ろう」という意識を潜在的に抱いてくれるようになる。大げさに言うと、テレビか何かでタピオカの情報を仕入れた時に、私のことをふと思い出してくれるようになる。そうすると、その人が次に私に会った時、そのタピオカの情報を私に与えてくれる。

というように、「自分はこんなもの・ことが好きだ」と普段から周りに伝えておくことによって、さらに多くの情報を手に入れる機会が増えたり、純粋に周りの人が自分の好きなものの話を振ってくれるようになって楽しくなる、というのはあるなあ、と思った。

大人になって、他愛のない話をする機会が減っても、好きなものは好きだって言い続けたいね。

 

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仕事終わりに、ドラッグストアへ寄った。

お徳用のマスク、ボディソープ、メイク落とし、洗顔フォームなどを買った。

割と大きめの駅に直結の、まあまあの売り場面積のある店舗なので、品ぞろえは豊富で欲しいものはだいたい見つかる、そんなお店。しかし今日に関してはただ一つ、見つけられなかったものがある。

服の裏側に貼ることでワキ汗を吸い取ってくれるシート。あれだけ見つからなかった。

先日、通販で服を買った。薄ピンクで半袖の、結構ピタッとくっついて体のラインが出るようなトップスだ。これまであまり買ったことのない色味の服で、なんだかいつもと違う気分、と少しだけウキウキしながらその服を着て、いつも通り電車に乗って通勤。日中になって気温が上がってくると、だんだん汗ばんでくる。悲しいことにその日はまだ職場では冷房がついておらず、蒸し暑い中働く。すると当然汗をかく。ご想像の通りワキ汗もかく。ここで思い出してほしいのがこの時私が来ている薄ピンクのピタッとした服。あまり薄ピンクの服を着たことがなかった私はこの時初めて知ったのだが、薄ピンクの服は水分で色がよく変わる。グレーのTシャツなんかは一目瞭然で汗をかいたのが分かってしまうが、薄ピンクもそれに負けず色が変わる。

そんなこんなでこの日の昼以降、私はワキの下の汗染みを気にしながら過ごすこととなった。外から見えないように不自然なくらいにワキを閉じ、両脇のじっとり感に耐えながら一日の業務を終えた。

帰りの電車は混んでいて座れず、横並びの座席前に立った。頭上のつり革を掴もうとしたが、その瞬間脳裏にワキ汗のことが蘇り、上に伸ばしかけた左手を即座に引っ込めた。つり革にも掴まらず電車の揺れに耐える15分間の道のりは、なかなかにつらかった。

家に帰って私は服を脱ぎ、苦難に満ちた一日を共に過ごしたその薄ピンクの服と向き合った。

ごめんね、私このままじゃあなたとはもう一緒にいられない。お互いにつらいだけだもの。さようなら。

そう告げて薄ピンクに背中を向けた。

もう彼を着ることはない。最後に綺麗にしてこの関係に終止符を打とう。そう思って薄ピンクを洗濯機の中に入れ、スイッチを押した。

ごうんごうんと音を立てて回る洗濯機。その音の中から、声が聴こえた。

「僕らはまだ終わっていない。君が一番わかっているはずだろう?」

私は弱かった。彼との繋がりを断ち切ることができなかったのだ。

 

というわけで、例のワキ汗パッドを探していたのである。

しかしまあ、ドラッグストア中のどこを探しても見つからない。制汗剤のところにも、シーズン品のところにも、どこにもない。普通なら欲しい商品が見つからない時、店員にどこにあるかを尋ねるだろう。しかし私には「ワキ汗のシートってどこにありますか?」と店員さんに声を掛ける勇気はなかった。いや、汗をかくのは生理現象なのだから何も恥じる必要などないのだけども。私は自意識過剰こじらせ人間なのでそれができなかった。ああ、私はなんと弱い人間なのだろうか。

そんな経緯でワキ汗パッドは手に入らなかった。どこかで発見するまで、私と薄ピンクは決して一緒になることはできない。なんとも切ない恋路である。

あなた、待っていてね。私、いつか必ず迎えに行くから。二人の愛を取り戻すから。

私は、タンスの中で眠るその人に微笑んだ。