ゆきノート

好きな本や音楽、同棲中の恋人とのことなどについて。

同棲準備、2LDKのふたりの世界

恋人と同棲するために借りた部屋、その鍵を昨日もらった。不動産屋へ寄ったその足で2人で新居に向かい、手に入ったばかりの鍵を使って部屋に入る。内見の際に一通り部屋の中はチェックしたので、初めて足を踏み入れたわけではない。それでも、その部屋が「自分たちの家」であるというのがなんだか新鮮で、不思議な気分になった。

「ここ私の家。やばくない?」「え、待って。こんな広かった?」なんて話しながら、部屋の中をぐるぐる歩き回る。初めての二人暮らしなのだ。そりゃあ若者言葉のちょっとも出る。

玄関におもむろに敷かれた「ハウスクリーニング済み」と印刷されたA3サイズの紙は、なんとなく撤去する気にならずそのままにしておいた。「新居感」を私たちはできるだけ長く味わいたいのかもしれない。用紙を避けて、ベージュのコンバースと白のニューバランスを並べた。いつもは脱ぎ散らかしてある恋人の靴も、この時は綺麗に揃えてあった。彼も落ち着いているようでこっそりテンションが上がっているのだろう。

しばらく人が入っていなかった部屋だということで、和室の畳が少しばかり古ぼけていたり、ベランダの窓のサッシの外側で虫が死んでいたりということはあったものの、そんなことはもうどうでもよかった。それよりも、カウンター型になったキッチンから部屋の全体が見渡せることだとか、トイレの床んい大理石の柄が印刷されたタイルシートが貼られていることとか、リビングの四方の壁のうちの一面だけが他のアイボリーとは違ってグレーの壁紙になっていることとか、そういったことに心が躍った。

ここが、私たちの部屋。私たちだけの生活の場。ベランダの窓を開けて柔らかな風を浴びながらコーヒーを飲んだり、夜、キャンドルに火をともして二人で映画を見たり、そういう場面がここで生まれるんだろうなと思う。

ひとしきり新しい部屋を堪能してから、近所のホームセンターへ買い物に出掛けた。直近で必要な家具などを買いに行くためだ。

この日は寝具を買うのがメインだった。ベッドの売り場を歩き回る。クイーンサイズのベッドが寝やすくていいかとも思ったのだが、ベッドを置く部屋が6畳でクイーンベッドを置くとそれだけでいっぱいいっぱいになってしまうこともあり、ダブルベッドを購入することに落ち着いた。和室にベッドを置く予定のため、できるだけ畳を傷つけないよう床との接地面が大きいものを選んだ。ヘッド部分のデザインが選べるタイプだったので、部屋の木材の色に合わせて明るめの木製のヘッドのものにした。マットレスも合わせて購入。普通の柔らかさのものと硬めのものを選べるとのことで、恋人とあれこれ試した結果、お互い意見が一致して硬めのマットレスにすることになった。この辺の好みが一致するのも、一緒に暮らすとなると結構大事なのかもしれない。まあシングルベッド二つにするなり、何らかの解決方法は絶対にあるとは思うけれど。

ベッドとマットレス、その他の寝具合わせて十数万円。生活必需品だし、使う時間が長いものなのでそれなりにお金をかけた方が結果的には良いものだと思うので、個人的にはそこまで惜しむ金額ではない。それでもまあ、25歳のいちOLとしてはちょっとだけ「おお…」となる金額の買い物だ。長く使うものだし、今ここでケチるのも良くないよねと恋人と話し合い、購入の手続きを済ませた。大人になるってこういう事なんだなあと思った。これまでずっと実家暮らしで、自分の判断で大きい買い物をするのが人生でほぼ初めてだった。将来の状況の変化、経済状況、二人の生活スタイル、そういった色々なものを天秤にかけながら、お互いが最適だと納得できる選択肢を一つずつ選んでいくのだから、同棲や結婚というのはなかなか大変なものだ。世の夫婦や同棲カップルがみんなこれを乗り越えてきたと思うと世の中って大したものだと思う。

無事ベッドの購入を済ませ、そのままの勢いでソファとその前に置くロ―テーブルも買った。ソファはダークブラウンの合皮製。足の部分は黒いパイプでできていて渋めのカフェに置いてありそうな雰囲気。1か月ほど前に下見と称して家具を見に来た私たちは二人してこのソファに一目ぼれしてしまった。「このソファ置いたらもうブルックリンや」と、このソファを買うことと部屋全体をブルックリン風のインテリアで統一することが半ば決定してしまったのだった。無事お目当てのソファを購入し、私たちの部屋はブルックリンへの第一歩を踏み出した。ロ―テーブルは、天板がガラスになったものを選んだ。ガラステーブルは恋人の昔からの憧れだったらしい。下段の棚っぽいところにお洒落な雑誌を置いたら、天面のガラスを通してお洒落な表紙が見えてそれはもうブルックリンじゃないか。

ついでにカーテンも購入。ソファとロ―テーブルの勢いでダークブラウンの激シブカーテンをチョイス。おまけにレースカーテンはお洒落さに全振りして目隠しの意味を成すんだか分からない目の粗いものにしてしまった。お洒落さに勝てなかった。こうやって勢いでデザイン重視に走ってしまうのも、初めての同棲準備ならではなんじゃないかと思う。

一通りの買い物を済ませて部屋に戻った。ベッドやソファ等は取り寄せになったので、ひとまず手元にあるカーテンだけ窓につけてみることにした。もう暗くなっていたのでお洒落全振りのレースカーテンの是非はひとまず闇の中。しかしまあダークブラウンのカーテンを設置してみると、なんということでしょう、部屋の雰囲気ががらりと変わったのでした。やはり窓側の壁面の大部分を占めるだけあって、カーテンが部屋の雰囲気を決める部分は大きいのだと思う。他に家具は何もないのに、シックな部屋に早変わりした。

そして、これから二人で生活するのだという実感が急に湧き上がってきた。私、この部屋で暮らすの?ここで?この人と一緒に?今までずっと実家暮らしだったのに?親元を離れるというのが25歳にして初めてなので、緊張というか不安というか、それに加えて高揚というか、胸がざわざわする。

恋人にそれを言うと、「カーテン掛けただけでこれなんだから、これから家電や家具が増えていったらもっと『わーっ』ってなるよ」と言われた。そうだよなあ、ここで毎日眠って起きて、ご飯を作って食べて、お風呂に入って寛いでまた眠るんだよなあ。

その日は大体の部屋の掃除だけ済ませて、部屋を後にした。諸々の事情で実際この部屋で生活するようになるのは12月に入ってからになるだろう。それまでは週末をメインに徐々に生活ができる環境に近づけていくことになる。だんだん二人の世界が出来上がっていくのはすごく楽しみだ。「ハウスクリーニング済み」の用紙はやはりそのままにして、外から部屋の鍵をかけた。